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大阪地方裁判所 昭和49年(行ウ)1号 判決 1976年7月15日

原告 山内光子 ほか一名

被告 国 ほか二名

訴訟代理人 宗宮英俊 勝谷雅良 ほか二名

主文

一  原告らの主位的請求をいずれも棄却する。

二  被告国は、原告山内光子に対し別紙還付金目録(一)、(二)記載の金員の各一〇分の六を、原告新居利喜子に対し各一〇分の四を支払え。

三  被告山内茂は、原告山内光子に対し同目録(一)記載の金員の一〇分の六を、原告新居利喜子に対し一〇分の四を支払え。

四  被告山内武は、原告山内光子に対し同目録(二)記載の金員の一〇分の六を、原告新居利喜子に対し一〇分の四を支払え。

五  原告らのその余の予備的請求を棄却する。

六  訴訟費用は、原告らと被告国との間においては原告らに生じた費用の五分の四を被告国の負担とし、その余は各自の負担とし、原告らと被告山内茂、同山内武との間においては全部同被告らの負担とする。

七  この判決は第二項ないし第四項に限り仮に執行することができる。

事  実 <省略>

理由

第一原告らの被告国に対する主位的請求について

一  請求原因第1ないし第3項の事実は当事者間に争いがなく、<証拠省略>によれば同第4項の事実(相続税納付金の出所)が認められ、原告新居利喜子本人尋問の結果およびこれにより真正に成立したと認められる<証拠省略>によれば、同第5項のうち、原告両名間で原告ら主張通りの遺産分割の合意がなされていることが認められ、同項のその余の事実は当事者間に争いがない。

二  原告らは、右に認定したように被告山内茂、同武が納付した相続税が原告らに帰属すべき相続財産の中から支出されている以上、被告国は納付名義人のいかんにとらわれず、正当な相続人たる原告両名に対し直接還付金を支払うべき旨主張する。

しかしながら前記事実によれば、本件還付金は、元来被告山内茂、同武が自己固有の納付義務に基く相続税として納付した金員が、後に過納であつたとして減額更正されたために発生したものであることが明らかである。このことは、被告国が、結果的には本来相続税の納付義務のなかつた被告山内茂、同武から相続税の納付を受けたことにより、不当に利得を得た結果となつたので、これを固有の納付義務に基いて納付した被告両名に返還することを意味するのである。従つて被告国が本件還付金をもとの納付義務者でありかつ納付名義人たる被告山内茂、同武に還付すべきことは当然であつて、右納付金が実際は原告両名に帰属すべき相続財産から支出されていて、原告らが実質上の損害を蒙つていたとしても、それは原告らと右被告両名間に右を清算するための債権債務の関係を発生させる事由となるだけであり、原告らが被告国に対して直接何らかの債権を取得する事由となるものではない。しかも被告国にとつては各納付義務者から納付された金員がどのような資金源から調達されたかについては一切関知しないものであり、かつこれを調査すべき義務も権限もないのであるから、被告国は画一的に当該過納金の納付名義人に対し還付すべきであり、かつこれで足りるものというべきである。

三  従つて、原告らの被告国に対する主位的請求である、本件還付金債権の帰属確認およびこれを前提とした給付請求は、その余の点につき判断するまでもなく理由がない。

第二原告らの被告山内茂、同武に対する請求について

一  請求原因第1項、第4項(相続税納付金の出所)の事実は当事者間に争いがなく、<証拠省略>および弁論の全趣旨によれば、同第2、第3、第5項の事実が認められる。

二  ところで前記第一で判断したと同一の理由で本件還付金は被告山内茂、同武に支払われるべきものであるから、原告らの右被告両名に対する主位的請求(還付金債権の帰属確認)は理由がない。

三  そこで原告らの右被告両名に対する予備的請求について判断する。

前記のように被告両名は結局相続人ではなく、また右被告らが納付した金員はすべて原告両名に帰属すべき相続財産の中から支出されているのであり、本件還付金が右の納付金を過納金として返還するものであることは明らかであるから、右被告両名は、相続税の減額更正がなされた昭和四八年八月一八日の時点において本件還付金債権を取得したことにより、結局原告らとの関係において、法律上の原因なくして右債権額と同額の利得を得たものといわざるをえない。そして原告らはこれに対応して少くとも右還付金債権額相当の損害を蒙つていることは明らかである(原告らの本件口頭弁論終結時に現存する損害は、被告両名名義の相続税の納付額とこれに対する納付の日(別紙納税金額一覧表A欄記載の日)の翌日から、本件口頭弁論終結時に至るまで民事法定利率年五分の割合による金員であると解すべきところ、後述のように還付加算金はその還付金の大半につき昭和四八年九月一九日から同年一一月一五日までの国税通則法所定年七・三パーセントの割合による金員であるから、右損害が還付金債権を上回ることが明白である。)から、結局原告らの右被告両名に対する不当利得返還請求は理由がある。

第三原告らの被告国に対する予備的請求(代位請求)について

一  第二で認定したように原告らは被告山内茂、同武に対し不当利得返還請求権を有し、<証拠省略>によれば右被告両名は無資力であることが認められる。

二  ところで被告国は、同山内茂、同武の還付金債権は原告ら よつて仮差押をされており(この事実は当事者間に争いがない)、かかる場合、仮差押債務者たる被告山内茂、同武は右債権の行使を制限され、第三債務者たる被告国に対し給付の訴を提起しえないから、結局原告らの代位行使も許されない旨主張する。

しかし、債権に対して仮差押の執行がなされた場合、第三債務者は支払を差し止められ、仮差押債務者は取立・譲渡等の処分をすることができなくなるのであるが、このことは、これらの者が右禁止に反する行為をしても、仮差押債権者に対抗しえないことを意味するにとどまり、仮差押債務者は右債権について第三債務者に対し給付訴訟を提起し、かつこれについて無条件の勝訴判決を得ることができるものと解すべきであり(最高裁判所昭和四八年三月一三日判決民集二七巻三四四頁、被告国引用の大審院判例はこの判決によつて変更されたものである。)、この理は第三債務者が国であつても別異に解すべき理由はないというべきであるから、本件債権につき仮差押がなされているからといつて、原告らが被告山内茂、同武の同国に対する還付金債権を代位行使することに何らの支障を来すものではない。

三  次に被告国は本件債権が既に仮差押されていることによつて、原告らの被告山内茂、同武に対する不当利得返還請求権の将来における執行が保全されている以上、債権者代位権の行使によつて右同一請求権を保全する必要はないから、代位権の行使は許されない旨主張する。しかしながら、仮差押は金銭債権および金銭債権にかわるべき請求権の将来の強制執行を保全するために債務者の責任財産を仮に差押えて、その処分権を制限し、現状を維持することを目的とするものであり、債権者代位権は自己の債権を保全するために債務者に属する権利を行使することにより債務者の資力を維持しようとするものであつて、両者は共に自己の有する債権の将来における現実的満足を確保することを目的としている点において共通するものがあるが、その制度、趣旨、要件、効果等の点においてそれぞれ差異があり、現行法上債権者は同一債権の保全を目的とするものであつても、その各要件を満たす限り、いずれの方法をとるかは自由であり、かつ併用することも妨げられないものと解すべきである。従つて原告らが本件債権につき既に仮差押をしていることをもつて債権者代位権行使の必要性が直ちに阻却されるものではないから、この点の被告国の主張は失当である。

四  さらに被告国は、既に被告山内茂、同武が本件還付金の支払を被告国に対して請求しているから、もはや原告らは代位権を行使することができない旨主張し、<証拠省略>によれば、被告山内茂は昭和四八年九月一七日、同武は同月一四日各到達の書留郵便により、被告国(所轄日本橋税務署長)に対し、それぞれ自己あてに本件還付金を支払うよう請求している事実が認められる。しかしながら、債権者代位権は前述の如く債務者に属する権利を代位して行使することにより債務者の資力を維持することを目的とするものであるから、債務者が自己の有する権利を自ら行使して、その現実的満足を得るか、あるいはその現実化にむけての何らかの具体的な法律上の手段(訴の提起等)の実行に着手するまでは、債権者は代位権を行使することによつて自ら債務者の右権利の実現を確保することができるものと解すべきである。そうだとすると、本件においては、前記のように被告山内茂、同武は単に被告国に対して還付金をそれぞれ自己あてに支払うよう求めているだけで、他に右還付金債権の現実化のための、何らの具体的な法律上の手段をとつていないのであるから、原告らが本件債権者代位権を行使するにつき何らの妨げはないものといわねばならない。

五  以上のように原告らの債権者代位権の行使が許されないとする被告国の主張はいずれも失当である。よつて原告らの、被告山内茂、同武を代位して被告国に対し還付金の支払を求める予備的請求は理由がある。

第四還付金額について

一  請求原因第6項の事実および還付金のうち加算金を除く金額(一二、三八〇、〇〇〇円)については当事者間に争いがない。

二  原告らは還付加算金は各納付金の納付の日の翌日から起算すべきである旨主張する。しかしながら、本件還付金は、被告山内茂、同武が相続人として相続税等を納付した後でかつ法定申告期限(昭和四五年一月一日)後である同四七年一二月一二日に、原告利喜子について民法七八七条による認知があつたために相続人に異動を生じ、そのために右被告両名が本件相続税の納税義務者たる地位を失つたことに伴い、被告国が右被告両名に対し同四八年八月一八日付で減額更正処分をした結果発生したものであるから、国税通則法昭和四五年三月二八日法第八号改正附則三条により改正後の同法の適用をうけることになり、かつ右は相続税法三二条二号所定の事由に該当するので、国税通則法施行令二四条五項にいう「(国税通則)法以外の国税に関する法律の規定により更正の請求の基因とされている理由で当該国税の法定申告期限後に生じたもの」に該当することとなり、結局本件還付加算金の始期については国税通則法五八条五項の適用を受けることになるのである。従つて本件還付加算金は同条一項、二項二号、五項により、前記更正のあつた同四八年八月一八日の翌日から起算して一月を経過する日の翌日(同年九月一九日)から、還付金債権の仮差押があつた部分(一二、二六六、四〇〇円)については右仮差押の日(同年一一月一五日)までの間、残余の部分(一一四、五〇〇円)については、支払決定の日まで、同法所定の年七・三パーセントの割合による金員となるのである。

三  すると各還付金合計額は同法一二〇条により別紙還付金目録記載のとおりとなる。

第五結論

よつて原告らの被告らに対する主位的請求はいずれも理由がないので棄却することとし、予備的請求のうち、被告山内茂に対する請求は、別紙還付金目録(一)記載の金員の一〇分の六を原告山内光子宛、同一〇分の四を原告新居利喜子宛支払うことを求める限度で理由があり、被告山内武に対する請求は、同目録(二)記載の金員の一〇分の六を原告山内光子宛、同一〇分の四を原告新居利喜子宛支払うことを求める限度で理由があり、被告国に対する請求は、同目録(一)、(二)、記載の金員の各一〇分の六を原告山内光子宛、同各一〇分の四を原告新居利喜子宛支払うことを求める限度で理由があるのでこれを認容し、その余はいずれも失当であるので棄却することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用し、仮執行免脱宣言は相当でないのでこれを附さないこととし、主文のとおり判決する。

(裁判官 奥村正策 寺崎次郎 山崎恒)

還付金目録

(一)金一二、三八〇、九〇〇円

および昭和四八年九月一九日から、内金一二、二六六、〇〇〇円(一、〇〇〇円未満切捨)については同年一一月一五日まで、内金一一四、〇〇〇円(一、〇〇〇円未満切捨)については支払決定の日まで、年七・三パーセントの割合による金員(但し、端数計算については国税通則法一二〇条に従う。)。

(二) 金一二、三八〇、九〇〇円

および昭和四八年九月一九日から、内金一二、二六六、〇〇〇円(一、〇〇〇円未満切捨)については同年一一月一五日まで、内金一一四、〇〇〇円(一、〇〇〇円未満切捨)については支払決定の日まで、年七・三パーセントの割合による金員(但し、端数計算については国税通則法一二〇条に従う。)。

債権目録

(一)金一二、三八〇、九〇〇円也

但し、被告山内茂が亡山内健二の相続人として国に対し、相続税、同延滞税、過少申告加算税、同延滞税、合計右表示金額を納付したところ、原告新居利喜子が亡山内健二の子として裁判上認知されたので、同被告が相続人の地位を失つたことにより、発生した債務者を被告国とする還付金債権。

及び、右還付金に対する加算金債権、内訳

金四、二三二、三〇〇円に対しては昭和四五年一月六日より

金一、〇六六、五〇〇円に対しては右同月九日より

金二、三三三、五〇〇円に対しては右同月二五日より

金九、七〇〇円に対しては同年二月一三日より

金四、三六〇、二〇〇円に対しては同四六年一月一七日より

金二六四、二〇〇円に対しては同年三月三日より

各昭和四八年一一月一四日に至るまで

金一一、五〇〇円に対しては同四六年三月三日より

金九一、五〇〇円に対しては同四七年一一月二九日より

各完済に至るまで

いずれも年七・三パーセントの割合による。

(二) 金一二、三八〇、九〇〇円也

但し、被告山内武が亡山内健二の相続人として国に対し、相続税、同延滞税、過少申告加算税、同延滞税、合計右表示金額を納付したところ、原告新居利喜子が亡山内健二の子として裁判上認知されたので、同被告が相続人の地位を失つたことにより、発生した債務者を被告国とする還付金債権。

及び、右還付金に対する加算金債権、内訳

金四、二三二、三〇〇円に対しては昭和四五年一月六日より

金一、〇六六、五〇〇円に対しては右同月九日より

金二、三三、五〇〇円に対しては右同月二五日より

金九、七〇〇円に対しては同年二月一三日より

金四、三六〇、二〇〇円に対しては同四六年一月一七日より

金二六四、二〇〇円に対しては同年三月三日より

各昭和四八年一一月一四日に至るまで

金一一、五〇〇円に対しては同四六年三月三日より

金九一、五〇〇円に対しては同四七年一一月二九日より

各完済に至るまで

いずれも年七・三パーセントの割合による。

請求金目録

(一) 金一四、八五七、〇八〇円及び、うち

金五、〇七八、七六〇円に対しては昭和四五年一月六日より

金一、二七九、八〇〇円に対しては同月九日より

金二、八〇〇、二〇〇円に対しては同月二五日より

金一一、六四〇円に対しては同年二月一三日より

金五、二三二、二四〇円に対しては同四六年一月一七日より

金三一七、〇四〇円に対しては同年三月三日より

各昭和四八年一一月一四日に至るまで

金一三、八〇〇円に対しては同四六年三月三日より

金一〇九、八〇〇円に対しては同四七年一一月二九日より

各完済に至るまで

いずれも年七・三パーセントの割合による金員。

(二) 金九、九〇四、七二〇円及び、うち

金三、三八五、八四〇円に対しては昭和四五年一月六日より

金八五三、二〇〇円に対しては同月九日より

金一、八六六、八〇〇円に対しては同月二五日より

金七、七六〇円に対しては同年二月一三日より

金三、四八八、一六〇円に対しては同四六年一月一七日より

金二一一、三六〇円に対しては同年三月三日より

各昭和四八年一一月一四日に至るまで

金九、二〇〇円に対しては同四六年三月三日より

金七三、二〇〇円に対しては同四七年一一月二九日より

各完済に至るまで

いずれも年七・三パーセントの割合による金員。

(三) 金七、四二八、五四〇円及び、右金員のうち

金二、五三九、三八〇円に対しては昭和四五年一月六日より

金六三九、九〇〇円に対しては同月九日より

金一、四〇〇、一〇〇円に対しては同月二五日より

金五、八二〇円に対しては同年二月一三日より

金二、六一六、一二〇円に対しては同四六年一月一七日より

金一五八、五二〇円に対しては同年三月三日より

各昭和四八年一一月一四日に至るまで

金六、九〇〇円に対しては同四六年三月三日より

金五四、九〇〇円に対しては同四七年一一月二九日より

各完済に至るまで

いずれも年七・三パーセントの割合による金員。

(四) 金四、九五二、三六〇円及び、右金員のうち

金一、六九二、九二〇円に対しては昭和四五年一月六日より

金四二六、六〇〇円に対しては同月九日より

金九三三、四〇〇円に対しては同月二五日より

金三、八八〇円に対しては同年二月一三日より

金一、七四四、〇八〇円に対しては同四六年一月一七日より

金一〇五、六八〇円に対しては同年三月三日より

各昭和四八年一一月一四日に至るまで

金四、六〇〇円に対しては同四六年三月三日より

金三六、六〇〇円に対しては昭和四七年一一月二九日より

各完済に至るまで

いずれも年七・三パーセントの割合による金員。

納税金額一覧表

B(円)

C(円)

備考欄

四五・ 一・ 五

四、二三二、三〇〇

申告にかかる納税分

一・ 九

一、〇六六、五〇〇

一・二四

二、三三三、五〇〇

二・一二

九、七〇〇

四六・ 一・一六

四、三六〇、二〇〇

三・ 二

三六七、二〇〇

更正決定にかかる納税分

小計

一二、三六九、四〇〇

四七・一一・二八

△九一、五〇〇

九一、五〇〇

裁決による取消分還付加算金

いずれも山内勇の相続税未納分に充当

一一・二八

一一、五〇〇

一二、二七七、九〇〇

一〇三、〇〇〇

合計

一二、三八〇、九〇〇

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